
全11回にわたって日本企業特にBorn in Japan企業の『海外進出』をテーマにした連載をお届けしており、今日はその2日目です。
Born in Japanの課題などはDay1のブログで詳しく書いておりますので、まだ読んで無い方は最初にこちらをご覧ください。
Day2では、日本のスタートアップの海外進出における成功例が少ない中で、まず海外のグローバルユニコーンの成功事例から学んでいきたます。
グローバルで爆速成長を見せるDeelとは
今回Deelをピックアップした理由は、実はDeelがアジア市場へ本格進出する際に筆者が、「アジア3番目の社員」として参画した経験を伝えられると考えたからです。 2022年当時はまだ何も無いところから、日本・アジアの組織の立ち上げに関わり、わずか数年で$800M ARRを突破し$120億ドルの時価総額にまで成長したのですが、そこには昨今の“グローバルスタートアップの強み”が凝縮されています。まずは改めてDeelの凄さを簡潔に整理したうえで、「Born in Japan」でも取り入れられるポイントをピックアップしてお伝えします。
1. 圧倒的成長力:どこがスゴいのか?
はじめに、「Deelって実際どんな会社?」という方のために、成長を支えてきた要素を表にまとめました。ポイントはプロダクト・組織・ネットワーク・拡張戦略という4つの観点です。 (Deelの事業内容について詳しく知りたい方は別途ご連絡ください。)

Deelにおいてはプロダクトを圧倒的に磨き切った部分が最も素晴らしいのですが、グローバル成長の点ではBorn in Globalの米国から発信した典型的なモデルといえます。特にリモート雇用という新しい発想が、拠点を作らず世界展開を迅速に実現する Default Globalやグローバルファーストという新しい世界展開のトレンドであり、特にコロナ禍以降この数年で一気にグローバルユニコーンの数が増えた背景ともいえます。
筆者のリアル体験:Deelから学べる“5つの着眼点”
「こんなにすごい会社、普通には真似できない…」と思われるかもしれません。しかし、Deelに身を置いて感じたのは、日本企業が取り入れやすい要素が意外にも多いということ。またDeelは創業者が二人とも外国人 (イスラエル人と中国人)であることも勇気を与えます。
特に“Born in Japan”が海外を目指すなら、以下の5点はヒントになるはずです。
1. “0→1”段階でどこに集中するかを明確化
Born in Globalではありますが、Deelも最初は「アメリカのエンジニア不足・給与高騰」というピンポイントなアメリカ国内の課題を解決することでPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を早期に獲得し、アメリカ市場からスタートしています。ただ、この 0 →1の段階で、グローバル共通の課題を意識しグローバル展開を見据えスタートしているはずです。
つまりBorn in Japanの日本企業も、国内からスタートするにせよ、数年以内に海外に出ていくのであれば、0→1の段階から海外市場を意識した中で、製品化し、国内実績を整えた上で海外に出て行くことは可能なはずです。またこの段階で、漠然と海外ではなく、どの国/地域の日本と同じペインを解決するか、といった海外展開のシナリオや簡易的な市場調査を通じた実態の把握も十分押さえておく必要があります。
こうした具体的なマイルストーンを明確にしておくことが、初期の人材採用・組織体制・資金調達にも大きな影響を与えます
2. リモート・ジョブ型の導入で人材獲得を加速
• Deelは「国を問わず、優秀な人材を採用できる仕組み」を最初から作りこみました。理由は、開発エンジニアをイスラエルなど米国外で採用したかったからです。また、後にサービスの特性上海外の法律や送金準備のための仕組みをつくるためにグローバル人材が必要だったという背景があります。
• 日本企業においてもエンジニア不足の話をよく聞きますが、海外のエンジニアをリモートで雇用すれば良いと思います。 よく外国人の採用はウェルカムだが日本に来てもらいオンサイトで仕事のコラボレーションが難しいという話が聞きますが、もし将来海外展開したい企業であれば、これを機会に乗り越えるべき課題です。これが実現できなければ海外展開 →グローバル組織の運用→ビジネスの成功は絶対に出来ません。 またリモート雇用は進出コストもリスクも圧倒的に安く抑えることができ、採用のハードルも一気に下げることができます。グローバルスタートアップであれば普通のことです。(大企業になるとまた別の課題があります)
3. カルチャーコード(Value)や組織制度を徹底する
Deelでは、“Deel Speed” 、“Genuine Care” 、“Transparency”…すべてのメンバーがこの行動規範を理解し、オンラインでも躊躇なく決断・行動できる仕組みがありました。また評価は完全なKPIやOKRベースでデジタル化しており、グローバルで統一、可視化できるようになっています。日本企業においてはいまだにKPIと評価制度が連動していない(理解していない)企業も多いですが、人的資本経営は欧米では遥か昔から当たり前の世界です。 特にリモートで海外の人材をマネージするグローバル組織においては、明確な仕組みで管理するフレームワークが必須になります。
よく、KPIで管理することに対して、日本的なチームワークの良さ(メンバーシップ制度?)が無くなってしまうと反発する人がいますが、チームワークなどを含めたカルチャーコードに対する評価軸も入れれば良いだけなので、全くそうした懸念はありません。
4. グローバル投資家やコミュニティとつながる
• Y CombinatorやA16Zなど、世界的なVCがDeelを後押ししたからこそ、資金調達・顧客獲得・知名度アップを一気に進められました。• Born in Japanも海外アクセラレーターへの応募や海外VCとのコミュニケーションを積極的に行うことで、世界水準の情報・ネットワークにアクセスできます。
また私どもPRFでも提供していますが、業界のメンターネットワークや現地人材との個人レベルとのネットワーキングも有効です。案外こうしたネットワークからの方がフィット感の強い人材採用のオポチュニティも広がるものです。
5. 国を攻める順番とシナリオを固めステップを踏む
• Deelはまず米国→英国→英語圏全体と、段階的に攻略しながら拡大。いきなり100ヵ国にアプローチしたわけではありません。• 日本企業も、ターゲット国の言語・文化・規制を考慮したうえで、「最初に狙う国」「次に広げる国」といったステップを明確化しておくと効率的です。これを初期段階から仮説として把握しておくことが大事だと思います。
途中でゴールが変わってしまう(ピボット)こともありますが、ゴールやそこに辿り着くまでの仮説ステップのシナリオ設定がなければどの方向に進んで良いか分かりません。
一目でわかる!Deel vs. Born in Japan学ぶべきポイント

「Deel流=絶対解」ではない。だが真似できる要素は多い
Deelの事例は、海外進出を目指す企業にとって刺激的です。しかし、
大きな投資家ネットワーク
多国籍な創業メンバー
コロナ禍でのリモートワーク普及など、
Deel特有の好条件が重なっている部分もあります。
しかし、「日本企業には関係ない」と片付けるのは尚早です。リモート活用による組織設計や、グローバルVCを味方につけるネットワーク構築など、あらゆるフェーズでヒントが隠れています。また、今回のトピックスでは触れませんでしたが、彼らのM&A戦略も1つのヒントになると思っています。こちらは今後改めて触れていきます。
なるほど、では実際にどう進めていけば良いかと思った方は、是非当社PRFへのお問い合わせをお待ちしています。30分の壁打ちから、実際に事業開発やグローバル組織運用に関する伴走など、様々なご提案が可能です。
次回予告
次回(Day3)は、「SORACOMの海外展開から学ぶBorn in Japanのグローバル戦略」です。今度は日本初のテック企業がどう海外を攻めたのか、そこから得られる学びを深掘りします。 お楽しみに!
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