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Day3: ソラコムの海外展開から学ぶBorn in Japanのグローバル戦略

執筆者の写真: Takayuki NakajimaTakayuki Nakajima

全11回にわたって日本企業特にBorn in Japan企業の『海外進出』をテーマにした連載をお届けしており、今日はその3日目です。


はじめに:日本発スタートアップ、海外で勝てるのか?


前回(Day2では、世界に通用するグローバルスタートアップDeelの事例を取り上げ、「最初から海外」を前提とした企業(Born in Global)の圧倒的成長力の背景4点と、日本企業も実施できる5つのポイントについて一緒に学んできました。 


一方で、「日本に本社組織を置きながら海外へ挑戦するには、いったい何が必要なのか?」と悩む方も多いはずです。そこで今回は、同じBorn in Japanとして国内で創業しながら、海外事業を力強く拡大しているソラコムの海外展開に注目します。


  • Nokiaのような世界的大手が撤退してしまうようなマーケットで、なぜ日本発スタートアップが上場まで辿り着き、今も成長を続けているのか?

  • 大企業であるKDDIの後ろ盾はどう生かされているのか?

  • 「日本人主体」とされる組織で、海外チームを上手くリードする秘訣は何なのか?


そうした疑問に答えつつ、「日本発」でも海外ビジネスを軌道に乗せる方法を探っていきましょう。


なお、2024年に開催したソラコムとのセミナーの振り返り記事もよろしければ合わせてご覧ください。



大企業でも撤退…“グローバル”はそう甘くない


まず押さえておきたいのは、グローバル展開=グローバル企業や大企業が有利、というわけではないということ。実際、世界的ブランドのNokiaが、ソラコムのガチ競合となるIoT通信分野の「IMPACT」事業で日本やアジアを撤退すると報じられました。


  • 「あのNokiaが?」「ブランド力も技術力もあるのに、なぜ…」

  •  国ごとの規制や、ビジネス習慣、競合環境への適応が進まず、撤退判断を余儀なくされたようです。


その一方で、同じIoT領域で日本発のスタートアップであるソラコムは、昨年2024年上場を果たすなど順調に成長中。これだけでも、「グローバル企業が絶対に勝てる」わけではない、ということがわかります。



ソラコムの成功要因:日本企業の強みとグローバル標準の掛け合わせ


1. 日系大企業の後ろ盾:安定した成長余地を確保


欧米のVCファンドに支援されるスタートアップでは、2〜3四半期連続で成長が鈍るとすぐにレイオフや経営刷新、売却を迫ることがあります。(勿論Amazon、Uber、Salesforceなどリードインベスターの強いコミットの下に例外は沢山あります)が、筆者自身もVC時代は米国投資チームの一員として仕事をした際、成長率が下がるだけで「Living Dead(生きた屍)」と言われる厳しい世界を目にしました。 そんな中、これは筆者の私見も含まれるが


  • ソラコムの場合:KDDIなどの日系大企業や日系VCの支援があり、短期成果を追い詰められずに済んだのではないか。

  • 長期目線での投資が受けやすいため、基盤構築や海外展開の計画を落ち着いて進められた


このスタイルは「インフラ系ビジネス」だからだけでなく、長期的視野が必要なスタートアップにも応用できます。海外進出を考える“Born in Japan”の企業は、「日系大企業と手を組み、安定成長を図る」選択肢を検討してみるのも一案でしょう。



2. AWS流カルチャーを取り入れた組織


「日本人が多い組織」だと、どうしても従来通りの国内カルチャーに閉じてしまいがちです。しかし、ソラコムは創業メンバーにAWS(Amazon Web Services)出身者が多く、例えば


  • OKRやKPI連動型のグローバル標準の評価制度

  • 成果ベースのコンペンセーション設計

  • 行動規範(バリュー)の明確化

  • バックオフィスの共通化とグローバルツールへの集約


など外資系スタートアップで一般的な仕組み(良いところ)は積極的に導入されています。


さらに興味深いのは、日本独自のチームワーク文化も大切にしている点です。「みんなでサポートし合う」「難局を一丸となって乗り越える」といった精神を、“カルチャーコード”として織り込むことで、欧米的ドライさだけではない強固な組織を作り上げています。


ソラコムの社員同士が、チームにおける貢献や成果を讃え合いながら涙する場面もあるという話を聞きました。まさにValueへの貢献度が評価の50%を占めているという。(業績評価が残り50%)   「日本的な想いの強さと外資系の仕組み」が合わさることで、リモートや異文化環境でも強い一体感を生み出せるわけですね。



3. 早期の海外展開と“日本企業との海外パートナーシップ”の掛け合わせ


ソラコムは、創業1年以内の海外進出を宣言されています。創業当時からグローバルを意識してきたということです。


また日本の大企業とのパートナーシップが海外展開においても鍵となってきたようです。最近の例としては、スズキのインド事業におけるIoTインフラの構築を協力しており、そこからインド市場への参入を進めておられます。


海外事業開発は「現地顧客をゼロから作り出す」だけでなく、海外の日本企業を顧客にしたりパートナーシップを足がかりにするという方法もあるわけです。



4. 現地リーダーが長期在籍する“本当のグローバル組織”


「日本人主体」の組織においても、現地市場を知り、顧客との深いリレーションシップを持つ現地のキーパーソンの採用はスピード感や長期的成長の観点からとても重要です。ソラコムではそうした人物にリーダーシップチームに入ってもらい活躍してもらっています。例えば、米国では、立ち上げ当初から参画している現地リーダーが、創業以来ずっと会社を牽引しているとのこと。


やはり本社が現場から遠く離れた日本企業が現地で組織を成長させるためには、現地メンバーのリーダーシップが重要で、「グローバル展開でよくある現地スタッフのモチベーション低下」や「本社との温度差」問題を最小化するための不可欠な要素となります。



【まとめ】ソラコム流から学ぶ、Born in Japanが海外で勝つヒント


ソラコムは、日本と欧米(外資系)のルールやカルチャーの良いところだけをミックスし、日本企業のグローバル組織における最適解を作られ、しっかり定着させてきたことが成功要因の1つになったこと筆者は考えています。


ここまでのポイントを表にまとめます。Day1・Day2で挙げた課題(資金調達・組織運営・カルチャー・海外展開スピードなど)との対応を意識しながらご覧ください。



次回予告


こうして見てみると、日本が拠点でも、大企業の後ろ盾・グローバル標準の仕組み・現地リーダーの登用といった施策を組み合わせることで、海外市場を切り開く道は十分に存在することがわかります。


次回(Day4)では、逆に日本人創業者が海外で創業し、ここまでグローバル展開を成功させているケースとして、米国で創業されたALPACAの海外展開戦略を学び、そこから「Born in Japanが取り入れられるエッセンス」を探していきます。お楽しみに!

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